診療報酬改訂に思う

 平成28年4月に2年に1度の診療報酬の改訂が行われました。「診療報酬ってなに?」って感じですよね。診療報酬とはいわば医療の値段の事です。診察がいくら、デイケアを利用するといくら、検査がいくら、処方箋発行料がいくら、など国が決めた値段があるのです。皆さんがクリニックに受診した時には、その値段のうち保険等を使って一定割合の自己負担額を会計で支払っているわけです。国は2年に1度その値段を見直し、改訂を行っているのです。
 今回、私達精神科クリニックにとっては少し大きな改訂がありました。1つは多剤投与に対する報酬の減額措置、もう一つはデイケアの利用制限です。多剤投与に対する措置とは、1回の処方に対して、うつ病等の治療薬である抗うつ薬を3種類以上または、統合失調症等の治療薬である抗精神病薬を3種類以上処方すると通院精神療法という診察代が半分に減額されるというものです。半分に減額というのはクリニックの経営を考えると痛い措置です。減額の理由としては、一人の患者さまに対して、同じような系統の薬を何種類も出すことはよろしくないという考えです。日本は世界一医療費の自己負担の安い国と言われています。そのため、治療の効果がないとすぐに薬を増やしたり別な薬を加えたりすることが安易に行われているという実態があります。医療費全体の高騰の原因にもなっているとのことです。われわれ医師の立場からすると当然のことながら、儲けようと思って薬をたくさん出しているという事は全くなく、症状のなかなか良くならない患者さまに対してあれこれと薬の工夫をしているうちに次第に薬の種類が増えてしまったという所なのですが、漫然と何種類も処方していることは反省しなければなりません。
 次にデイケアの制限の方ですが、こちらは1年以上デイケアを利用する際には原則週に3日までとし、それ以上利用する場合には一定の条件をクリアしなければならいというものです。こちらの制限の理由として国が言っていることは、1年以上デイケアを利用するような状態の患者さまは、デイケアに来ているだけでなく、作業所や就労支援施設等の利用を目指していきなさい。デイケアばかりに留まっていずに、次の段階に進みなさい、という意図のようです。フムフム、われわれもそう思います。しかし、みんながみんなそう順調にはいかないことも確かで、私はこの制限には反対です。ある患者さまは何年も引きこもって家から出られずにいました。訪問を繰り返して本人と治療関係を作り、ようやく少しずつ外へ出られるようになるまで1年を要しました。1週間に3時間だけデイケアに出てこれるようになり、少しずつ参加回数を増やしていきました。次のステップに進むまでにはあと数年を要するかもしれません。こうした患者さまにとってはデイケアは治療の希望であり、デイケアなくしては回復はあり得ないのです。デイケア利用制限がこれ以上進んでしまうと、大きな損失を被る患者さまが出てきてしまいます。国の決めたことには逆らえませんが、私達は現場の実態をしっかり国に伝えて、必要な人に必要な医療が受けられる環境作りにも努力しなければなりません。
 以上、久しぶりの院長のブログでした。
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 写真は最近我が家に来た八重桜です。秋に庭に植える予定。

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